大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成6年(行ウ)302号 判決 1996年3月28日

原告

岩井金属工業株式会社

右代表者代表取締役

広沢清

右訴訟代理人弁護士

中村善胤

坂東司朗

池田紳

被告

中央労働委員会

右代表者会長

萩澤清彦

右指定代理人

舟橋尚道

福田平

田村智行

肥後泰司

村瀬浩一

被告補助参加人

岩井金属労働組合

右代表者執行委員長

井手窪啓一

右訴訟代理人弁護士

井上英昭

在間秀和

桜井健雄

幸長裕美

奥村秀二

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、補助参加によって生じたものも含め、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が中労委平成五年(不再)第一一号事件につき、平成六年七月二〇日付けでした命令を取り消す。

第二事案の概要

大阪府地方労働委員会は、被告補助参加人(以下「組合」ともいう。)が原告を被申立人として申し立てた不当労働行為救済申立事件(大阪地労委平成二年(不)第四五号事件)につき、別紙一のとおりの主文の救済命令を発した。原告は、右救済命令を不服として、被告に対し再審査を申し立てたところ(中労委平成五年(不再)第一一号事件)、被告は、平成六年七月二〇日付けで右再審査申立てを棄却する旨の別紙二(略)のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発した。本件は、原告が本件命令の取消しを求めたものである。

一  前提となる事実(以下の事実は、当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告は、肩書地に本社を置き、物置製作等を営む株式会社であり、本社付近には、事務所部門、第一機械部門(作業場所は第一工場及び第二工場)、第二機械部門(作業場所は第六工場)、第一溶接部門(作業場所は第三工場)、第二溶接部門(作業場所は第二工場の二階)、第一組立部門(作業場所は第三物流センター及び第五工場)、化成品部門(作業場所は第八工場)があるほか、東大阪市に東部センター及び加納工場を、枚方市に枚方工場を有し、その従業員数は本件再審査審問終結時約一三〇名である。このほか、門真市には原告が全額出資して設立した新日本軽金属工業の工場がある。

(二) 組合は、原告の従業員により構成されている労働組合であり、その組合員数は本件再審査審問終結時六名である。

2  社長交代前の労使関係

(一) 組合は、平成二年六月六日、原告の従業員約六〇名で結成された。同日、組合は原告に対し、組合結成の通告を行うとともに、団体交渉(以下「団交」という。)を申し入れ、翌七日に開催された団交において、<1>組合掲示板を各工場に一つずつ設置すること及び食堂の利用を認める、<2>就業時間外の原告会社施設内での組合活動を保障する、就業時間内でも執行委員長への連絡通信を取り次ぐ旨の協定書を締結した。また、当時第一機械部門には、ほとんど実質的な活動を行っていない「評議員会」という従業員の親睦団体的な組織が従来利用していた掲示板(以下「第一機械掲示板」という。)があったが、右団交の席上において、原告社長岩井正雄(以下「岩井社長」という。)は、第一機械掲示板についても、組合掲示板として利用することを許した。組合は、翌八日から、第一機械掲示板に組合掲示板という表示をして、使用を開始した。

(二) 同月一三日に開催された団交では、組合が「組合事務所として会社厚生会館を使用させてもらいたい」と要求したところ、岩井社長は「厚生会館は倉庫として使用中であり、時期は明言できないが、努力目標として早く整理してこれを使えるようにしたい」と答えたため、組合は「当面、備品置場がほしい」と述べたところ、原告会社副社長岩井孝雄(以下「岩井副社長」という。)は、「本社工場の横にプレハブの建物が一つある。使ったらいい」旨を述べた。そこで、原告と組合との間で「会社は組合に備品の置場を提供する」との協定書が締結され(以下右協定と前記(一)の協定とを併せて「本件協定」という。)、組合は、同月一六日から、本社工場横のプレハブの建物(以下「本件プレハブ建物」という。)の使用を開始した。組合は、以後、本件プレハブ建物入口に「岩井金属労働組合」と表示し、右建物内において、平日の就業時間外などには書類の作成、印刷作業、二、三名での打合せなどを行い、日曜日にもレクリエーション活動の準備や組合大会議案書の作成などで使用することがあった。

(三) 同月二七日、組合と原告は、組合掲示板等について具体的な協議を行い、組合は、本社のレヴェラーの入口の横、枚方工場等の七か所に掲示板の設置を要求し、また、使用中であった第一機械掲示板については、存置するよう申し入れた。原告会社総務部次長渕上静雄(以下「渕上次長」という。)は、枚方工場については他の企業から借りていることから設置を断り、本社のレヴェラーの入口横については反対側のトイレの横にすることを求め、それ以外については了承した。

(四) 同年九月初め、原告は組合に対し、六枚の掲示板を貸与した。同月五日、組合は六枚の掲示板のうち三枚を、本社一階トイレ横、第八工場(化成品部門)、第三物流センター(第一組立部門)に設置し使用を開始した(以下、これらの掲示板をそれぞれ「トイレ横掲示板」、「化成品掲示板」、「第一組立掲示板」という。)。残り三枚の掲示板は、組合が保管していた。

3  社長の交代及び第一機械掲示板の撤去要求

(一) 平成二年一〇月二日、岩井社長は、管理職と組合執行委員長井手窪啓一(以下「井手窪委員長」という。)、組合副執行委員長奥野信一(以下「奥野副委員長」という。)及び組合書記長判田明夫(以下「判田書記長」という。)の組合三役に対し、会社を広沢グループに売却することになり一〇月一日に調印した旨を告げた。組合は、岩井社長に対し、調印内容を明らかにすること、従業員全員に対して直接説明する場を設けること等を申し入れたが、岩井社長は、一〇月一日以降は権限がなく、調印書は公開できないとしてこれを断った。広沢グループは、金属・プラスチック加工、電気部品製造、不動産業等を営む一五社で構成され、従業員総数は約二〇〇〇名であり、同グループ内の企業で労働組合があるものは、原告のみであった。

(二) 同月三日、組合は、各取締役に対し、同日開く従業員集会に参加し、今回の社長交代について説明するよう求めた要請文を提出するとともに、調印内容の公開を求める組合ニュースを配布し、同日夕方、従業員集会を開催した。この集会において、組合は、「<1>社長交代に伴い、労働条件の不利益な変更を行わないこと。<2>社長交代の調印内容の公開、労働条件についての組合との協議、経理公開、団交開催や今後の取り決めについて公表すること」を内容とする決議文を採択し、各取締役に対し要望した。

(三) 同月四日、原告会社の朝礼において、新社長の広沢清(以下「広沢社長」という。)が紹介された。同日の就業時間後、広沢社長は、井手窪委員長を呼び出し、井手窪委員長及び奥野副委員長の面前で「黙っておれがやることを見ておれ、そうすれば工場内を明るくしたり、二階を完全に冷暖房にするなど良くしてやる。組合は解散しろ。顔が立つようにしてやるから、まずここで決意しろ。いやなら、ここにおられないようになるし、就職もできないようにしてやる。俺が言っているのは不当労働行為だ。地労委でも裁判所でも訴えてみろ。謝ってまたやったらいいんだ。経理公開など生意気だ。ばかやろう」などと約二時間三〇分にわたって一方的に発言した。

(四) 同月五日、新社長の就任パーティーにおいて、広沢社長は、「私が来た早々ビラとかポスターで迎える心の良くない一部の人がいる。非常識である。一回は誤解で許せる。しかしその誤解が二回、三回続くならば、命をかけて闘ってやる」と挨拶した。

(五) 同月一一日、渕上次長は、組合に対し、同月一三日までに第一機械掲示板を撤去することを求め、撤去しないなら勝手に外すとの通告を行った。これに対し、組合は、「理由を説明してもらえば、組合も考える。団交で提案して欲しい」旨述べ、団交を申し入れた。

(六) 同月一二日、組合は、渕上次長に対し、前日の団交申入れに対する会社回答を求めたところ、同人は、組合に対し、重ねて第一機械掲示板を撤去するよう要求した。これに対し、組合は改めて団交を申し入れた。

4  井手窪委員長の解雇及び同人の立入り拒否

(一) 平成二年一〇月一三日午後四時過ぎ、広沢社長は、第一機械掲示板の前に井手窪委員長を呼び出し、「組合掲示板の貸与は一つしか約束していないのだから、二つは要らない。一つ外せ」旨述べた。井手窪委員長は、「僕らは絶対外さないと言っているのではない。団交で話し合って決めたいと言っている」旨述べ、第一機械掲示板を撤去せず、これについて改めて団交を申し入れたところ、広沢社長は、「じゃあ、お前やめろ。ここで解雇通告をする。後は裁判でやりな」旨述べた。これに対し、井手窪委員長は抗議し、解雇理由を問いただしたが、広沢社長は、「使いたくないから解雇する」旨述べ、具体的な解雇理由を示さなかった。

同日開催された夕礼においては、広沢社長が井手窪委員長の夕礼への参加を拒んだことから、判田書記長が広沢社長に対して井手窪委員長の解雇の理由を尋ねると、広沢社長は、「理由はない。俺と井手窪はあわない。後は裁判でやれ」旨述べた。広沢社長は、その後で、「その日あったことをポスターに書くような力があるのだったら、仕事にその力を使え。皆が私に賛同してくれないのなら、会社はやっていけない。組織をとるのか、私をとるのか、はっきりさせてくれ。そうしないと、私はこの会社を運営していけない。広沢グループの他の会社でもこういうことがあったけれど、組合を取った一握りの人はおれなくなってしまった」旨挨拶した。

(二) 同月一五日、原告は、出社してきた井手窪委員長に対して、解雇され従業員でなくなっているとして、同人の会社構内及び本件プレハブ建物への立入りを拒否した。その後も、井手窪委員長は、数回にわたり出社したが、原告は、本件初審審問終結時まで、同人の立入りを拒否し続けた。

5  組合脱退署名の提出

平成二年一〇月一五日午前一〇時ころ、原告会社取締役製造本部長田中穣(以下「田中本部長」という。)は、製造部長沢井伸一(以下「沢井部長」という。)、第一機械部門担当係長勝浦信一(以下「勝浦係長」という。)、第二機械部門担当係長安藤文治(以下「安藤係長」という。)及び第二溶接部門担当係長竹林某を呼び、「一昨日夕礼において、広沢社長が、組織をとるか、私をとるか、はっきりさせて欲しいと言われた。会社を再建するに当たり、社長の指導の下、皆一丸となってやるのか、騒ぐのか、はっきりさせる必要がある。広沢社長は、社長の指導のもとやって行けない人があれば、大阪まで来てやりたくないと言っている」と述べて、組織をとるのか社長をとるのか、皆に早急に聞いてきて欲しい旨指示した。東部センター主任早藤修治(以下「早藤主任」という。)には、沢井部長が電話で同様の指示をした。

その後、勝浦係長、安藤係長、化成品部門係長牧浦哲司(以下「牧浦係長」という。)、同部門主任丸山文雄(以下「丸山主任」という。)、早藤主任は、それぞれ受持ちの部署において、就業時間の内外で、組合員の組合脱退署名を集め、右署名を組合に提出した。同日、このようにして組合に提出された組合脱退署名は約八〇名分に達した。

6  組合費等の返還請求

(一) 平成二年一〇月二二日ころ、沢井部長が通路を歩いていたとき、安藤係長が沢井部長に対し、「組合費は返してもらえるのか」と尋ねたところ、沢井部長は「返してもらえ、返してもらえ」と述べた。その後、安藤係長、丸山主任ほか二名が集まり相談のうえ、同人らが中心となって組合費及び闘争積立金(以下これらを「組合費等」という。)の返還を求める署名が集められた。なお、組合規約四七条二項には、「闘争積立金はストライキ基金として毎月五〇〇円を納入し、個人名義で執行委員会が管理する」、同規約四八条には、「既納の組合費は返却しない」との規定がある。また、組合は、「闘争積立金は退職時に返還します」との組合ニュースを配布したことがあった。

(二) 同月三一日、第二溶接部門班長牧浦某が、同部門の従業員九名が署名・捺印した組合費等の返還請求書を組合に提出した。同年一一月二日、丸山主任は、第一機械部門一三名、化成品部門一五名、東部センター一二名、加納工場一一名等の従業員が署名・捺印した組合費等の返還請求書五通をまとめて組合に提出した。

7  組合のビラ配付に対する原告会社職制の対応

(一) 平成二年一〇月一八日、組合が従業員の出勤時(午前七時四〇分ころから)に原告会社玄関前でビラ撒きを行ったところ、工作課長玉置厚及び安藤係長が、ゴミ箱を持ってきて、ビラを受け取った従業員に対し、「ゴミは、ここへ捨ててください」と述べたため、多くの従業員はビラをゴミ箱に捨てた。

原告会社においては、従前は毎朝午前八時一〇分ころから数人が玄関前に集合しラジオ体操を行っていたが、同日以降は、組合のビラ撒きが始まる午前七時四〇分前後に従前ラジオ体操に参加していなかった原告会社役員及び職制が多数参集するようになった。

(二) 同月二四日、組合が従業員の出勤時において玄関前でビラ撒きを行っていたところ、岩井副社長、田中本部長、沢井部長等一〇名程度が集まって来て、右(一)と同様の行為を行い、以降、この状態が続くようになった。

(三) 同月二七日、組合が従業員の出勤時にビラ配布(ママ)を行っていたところ、原告会社職制など約三〇名が集まって来て、右(一)と同様の行為を行ったほか、勝浦係長は、大学ノートを出し、ビラを受け取った者の名前を書く振りをした。また、同日、牧浦係長は、化成品部門の従業員全員を集めて「月曜日からビラを絶対に受け取らないでください」と指示した。同日以降、組合のビラを受け取る者はいなくなった。

8  東條青年部長の班長職外し

(一) 平成二年一〇月二七日、勝浦係長は、第一機械部門第三班の班長であった組合青年部長東條裕彦(以下「東條青年部長」という。)に対し、「もう日報書かんでいい」と述べ、班長の仕事の一つを担当から外した。

(二) 同月二九日、東條青年部長が沢井部長に対し、右の日報の件を問い質したところ、沢井部長は、東條青年部長に対し、「考え方を変えないのなら班長としての指示はできない。現場で働いていろ」と述べ、班長としての仕事をさせなくした。なお、班長手当は、上記沢井部長の発言以降も支給されていた。

当時の原告会社の第一機械部門には、担当部長、担当係長の下に、七つの班があり、六名の班長がいた。各班の班長は、係長からの作業指示書に基づいて資材のチェック、機械や材料等の段取りの決定、金型の取付けを行い、班員の配置や他の班への応援につき班員を指揮・指導し、一日の仕事の成果等をまとめて日報に記録するなどの業務を行っていた。

(三) 同年一二月二八日、東條青年部長は原告から解雇された。これに対し、組合は、東條青年部長の解雇は不当労働行為であるとして、大阪府地方労働委員会に救済申立て(平成三年(不)第四六号)を行い、同事件は本件再審査審問終結時において同委員会に係属中であった。

(四) 原告は、平成五年八月三〇日に大阪地方裁判所から、東條青年部長の右解雇を解雇権の濫用により無効であるとして、同人の雇用関係の存在を確認し、賃金の支払いを命じる内容の判決が言い渡されたことを受けて、東條青年部長に対し、第一機械部門において就労を認めるに至った。

9  本件プレハブ建物の破壊

(一) 平成二年一〇月二六日、本件プレハブ建物の壁が、フォークリフトの爪で二か所破壊されるとともに、建物の入口にパレットが積まれ、入ることが困難になった。同月三〇日、本件プレハブ建物の窓ガラスが、一枚割られた。同月三一日、本件プレハブ建物の窓ガラスが割られ、建物の壁がフォークリフトの爪で破壊され、入口の戸が開かなくなった。また、建物の電源も切られた。同年一一月八日午後七時ころ、勝浦係長は部下に指示して本件プレハブ建物にフォークリフトを突っ込ませ、事務所として使用できなくした。同月一二日、本件プレハブ建物は、フォークリフトで押し潰され、完全に破壊された。

(二) 同年一二月二日、組合や(ママ)本件プレハブ建物の応急修理をしたが、同月八日、原告会社課長香西某、勝浦係長等が、沢井部長の指示に基づいて、本件プレハブ建物を、その中にあった机や冷蔵庫などとともに、組合に無断で撤去した。なお、組合事務所を撤去した後には、組合の看板だけが残され、「長い間ごくろうさん、サヨナラ、サヨナラ」と落書きされていた。

10  組合掲示板の撤去

(一) 平成二年一〇月一四日、第一機械掲示板の上に広沢グループのスローガンを書いた白いボードが貼られ、同掲示板は以後組合掲示板として使用できなくなった。なお、その後、第一機械掲示板が設置されていた壁は取り壊され、その場所に事務室が設置された。

(二) 同月二四日、第一組立掲示板が撤去された。組合が、次長身浦時男に抗議したところ、同次長は「会社のものではないかということで外した。元に戻しておく」旨述べ、同掲示板は翌日元に戻されたが、同年一一月九日、何者かにより撤去された。なお、第一組立掲示板が設置されていた第三物流センターは原告が賃借していたもので、その後、賃貸借契約の解消により同センターは所有者に返還された。

(三) 同年一〇月二六日、トイレ横掲示板が、何者かにより、一方的に撤去された。同日昼、組合が、常務取締役宮崎某(以下「宮崎常務」という。)に対し、同掲示板撤去について抗議したところ、宮崎常務は「個人的には非常に遺憾である。しかし、新たな掲示板を買うとなると、財政支出など自分一人では即断しかねるので、その間代わりのものをそこに設置してよい。犯人は判らないが、守衛には注意しておく」旨述べた。しかし、同日夕方、同掲示板の跡に原告会社のQCポスターが貼られており、これについて、組合が岩井副社長に抗議したところ、岩井副社長は「剥いだら警察に言う」旨述べた。その後、組合は、上記QCボスターの下に組合ニュースを貼ったが、すぐに剥がされた。

(四) 同月三〇日、化成品掲示板が何者かにより撤去された。

11  団交申入れに対する原告の対応

(一) 平成二年一〇月二五日、組合は、広沢社長に対し、内容証明郵便で、「<1>同年一〇月一五日の脱退工作をはじめ数多くの不当労働行為を謝罪すること。<2>不当労働行為は今後一切行わないことを約束すること。<3>委員長への就労妨害を直ちに止めること。<4>労働条件を組合との話し合いで決めること。<5>委員長に給料を支給すること」を交渉事項とする団交を同月三一日に原告会社本社会議室で開催するよう申し入れた。

(二) 同年一一月二日、組合は、原告に対し、右の交渉事項に、「<1>同年一〇月二九日に、組合員である班長から班長としての仕事を奪ったこと、一〇月二九日以降連日、管理職・職制を動員して組合ビラの受け取りを妨害していることなどの不当労働行為を謝罪し撤回すること、<2>組合掲示板の撤去や組合の掲示に対する妨害、更に、組合事務所への送電中止や窓ガラス、壁への破壊をやめ、原状回復すること」などの事項を追加して、同年一一月七日に団交を開催するよう、また、その諾否を同月五日までに回答するよう申し入れたが、これに対する原告会社の応答はなかった。

(三) 同月二二日、組合は、原告に対し、以上の議題に冬季一時金の議題も追加して、団交を同月二八日に開催するよう申し入れた。

(四) 同月二八日、原告会社の夕礼終了後、広沢社長が奥野副委員長と判田書記長に対し、「これから交渉しよう」と述べたので、同人らは「待機している井手窪委員長にすぐ連絡を取るから、ちょっと待って欲しい」と述べたが、広沢社長は、「井手窪委員長を入れて団交を行うことはできない」と述べ、同日団交は開催されなかった。このため、同人らは、広沢社長に対し、翌二九日の団交開催を申し入れたが、広沢社長は、「明日は会社本社がある茨城に帰るので、団交はできない」旨述べた。

(五) 同月二九日午後四時半ころ、宮崎常務と渕上次長が奥野副委員長に対し、「広沢社長が本日終業後、団交しようと言っている」と述べたが、奥野副委員長は、「昨日、広沢社長が団交はできないと言ったので既に日程を入れており、井手窪委員長が出席できないので、団交はできない」として断った。この後、後記(六)の団交までの間、組合と原告による団交は開催されなかった。

(六) 初審審問終結後の平成四年一〇月一六日、団交が開催されたが、そこでの原告の対応は、要旨、「<1>井手窪委員長の就労妨害の中止、東條青年部長の班長からの降格撤回、不当労働行為の謝罪などの要求に対しては、労働委員会や裁判所で争っているので、これ以上話し合う余地はない。<2>労働条件を組合との協議で決定せよとの要求に対しては、原告が必要と思う事項については協議するが、原告が必要ないと判断する事項については協議しない。<3>ビラ配布の妨害中止の要求に対しては、就業時間外の原告会社施設内における組合活動を認めた本件協定を解約したので、組合は原告会社構内での組合活動はできない」というものであった。

同年一二月六日、同月一四日にも団交が開催されたが、原告は、「係争事件については争う。組合が、ただ撤回しろ、謝罪しろと言うだけで一歩も出ないので、会社も一歩も出ない」という趣旨の回答をするのみであった。以後、本件再審査審問終結時に至っても、原告の本件団交に関する対応に変化はない。

12  本件協定の解約

原告は、平成四年六月九日、組合に対し、事前に事情説明を行うことなく、本件協定について、同年九月九日をもって解約するとの予告を行った。

13  本件命令

組合は、原告を被申立人として、平成二年一一月一三日、<1>井手窪委員長に対する解雇を撤回し、同人を原職復帰させること、<2>組合員に対する脱退勧奨及び組合費等の返還を請求させるなどの組合に対する支配介入を行わないこと、<3>組合事務所の破壊、組合掲示板の撤去、井手窪委員長の組合事務所への立入り阻止及び従業員に組合ビラの受取りを拒否させることなど組合活動を妨害しないこと、<4>原告は、破壊した組合事務所を元どおり復旧するとともに、撤去した組合掲示板を従前どおり設置すること、<5>東條青年部長に対する班長からの降格処分を撤回すること、<6>同年一〇月二五日及び同年一一月二日付けの団交申入れについて誠実に団交に応じること、<7>右各事項にかかる陳謝文を掲示するとともに、組合に手交すること等を求めて、大阪府地方労働委員会に救済の申立て(大阪地労委平成二年(不)第四五号事件)をし、同地方労働委員会は、平成五年二月一二日付けで別紙一の主文の初審命令を発した。原告は、初審命令を不服として被告に再審査の申立て(中労委平成五年(不再)第一一号事件)をしたが、被告は、平成六年七月二〇日付けで別紙二(略)の本件命令を発し、本件命令書の写しは、同年八月一九日、原告に交付された。

二  争点

井手窪委員長に対する解雇及びその後の立入り拒否、係長等による組合員の脱退届・組合費等返還請求書の提出、組合ビラ配付に対する原告会社職制の対応、東條青年部長の班長職外し、本件プレハブ建物の破壊、組合掲示板の撤去、平成二年一〇月二五日及び同年一一月二日付けの団交申入れに対する原告会社の対応がそれぞれ不当労働行為に該当するか。

三  当事者の主張

(原告)

1 井手窪委員長の解雇について

井手窪委員長の解雇問題について、本件命令は、原告代表取締役が同委員長を嫌悪し、組合に打撃を与えるために同委員長を即時解雇した旨認定するが、一方で、解雇したのは原告が組合に何ら使用権限のない第一掲示板の撤回(ママ)を求めたことに対し、同委員長が拒否をしたことにあることも認定している。この点には、原告代表取締役が組合に対する嫌悪感を示すような意思を表明していることから直ちに不当労働行為の意思を認定し、その予断に基づきすべてを判断した矛盾がある。

2 組合脱退署名の提出及び組合費等の返還請求、組合ビラの配付について

本件命令は、組合脱退署名の提出及び組合費等の返還請求並びに組合ビラの配付の問題について、原告代表取締役が嫌悪感を表明しているということのみから、下級職制の行為が会社の行為に該当するか否か、詳細に検討することなく予断をもって原告の行為と判断して、不当労働行為を認定した違法がある。

3 東條青年部長に対する班長職外しについて

東條青年部長を班長職から外したことについては、原告が職務分担の変更をした結果、同青年部長が職制上の班長の職務に従事する必要がなくなっただけであり、これは、原告の人事上の問題に係るもので、そのことが何故に組合活動を萎縮させることを企図することになるのか、本件命令中にはその理由が不明である。また、同青年部長の右降格処分の救済の必要性についても、同人が解雇されていることにより、そもそもその必要性は認められないのであるが、本件命令は、その解雇事由が組合の正当な利益を侵害しているものであるか否か判断することもなく、単に予断に基づき必要性を肯定しているもので、原告の従業員の人事権の問題と不当労働行為と混同しているという外はない。

4 本件協定の解約・失効について

(一) 原告は、本件プレハブ建物の使用、組合掲示板の設置、会社施設内での組合活動を認めた本件協定につき、平成四年六月九日解約の予告をしたから、初審審問終結後の同年九月九日、解約の効力が生ずるに至った。仮に、右解約が効力を有しないとしても、本件協定には期間及び更新についての定めはなされていなかったのであるから、平成二年六月七日付けの本件協定は平成五年六月七日の経過をもって、平成二年六月一三日付けの本件協定は平成五年六月一三日の経過をもって、いずれもその効力を失った。また、仮に、期間満了による終了が労働組合法上ありえないとしても、本件協定は暫定的な協約で、原告はこの協約の予告解約の申入れをなし、これを前提として組合と労使交渉等を重ねてきたもので、このことは、組合も熟知していたところであり、それにもかかわらず、協約更新のための団交の申入れもしていない。したがって、本件協定は少なくとも協約成立から三年の期間満了によって失効した。

本件では、右のとおり、本件協定が有効に解約され、又は失効したことにより、原告は組合に対し本件プレハブ建物と同程度の建物及び組合掲示板を提供しなければならない法的義務はない。

(二) 本件協定の解約が不当労働行為であるとするためには、組合事務所、掲示板等の使用について使用者(原告)の業務上の支障と組合(被告補助参加人)側の使用の必要性を比較考量するなど、使用者と労働者側の客観的な利益衡量をなさなければならない。仮に、使用者の業務上の支障が少ない場合であっても、組合の損害が小さいということになれば、不当労働行為に該当しない。そして、本件でこのような比較衡量をなすためには、本件協定が原告と組合間の施設利用等の使用契約を内容とする便宜供与を含むものであるから、その解約の効力を確定する必要がある。

本件協定では、原告は組合に対し、本件プレハブ建物を単なる備品置場として貸与したもので組合事務所として貸与したものではなく、また、第一機械掲示板の使用を許可した事実はないし、その他の掲示板についても便宜的に使用を許可したにすぎない。このように建物と掲示板に関する本件協定は、恩恵的性格の暫定的一時的な使用貸借類似の合意にすぎず、組合もこの協約に基づく便宜供与が恩恵的なものであることは認識していた。このようなものであれば、原告に目的物の内容、使用方法、期間についての変更権があることは明らかであり、組合は原告の明渡ないし引渡請求に応じなければならないのであり、その予告解約とそれに基づく明渡請求自体が不当労働行為に該当するといえるためには、その明渡が組合の利益を著しく侵害する場合で会社がこれを意図した場合に限られるはずである。

原告は、組合との間で、本件協定を解約した後もこれを前提として団交を行ってきたが、その際組合は、自己の不当な要求が受け入れられることのみを主張し、およそ交渉の過程で協議して懸案の適正な解決を図ろうという姿勢ではなかった。このような組合の交渉のための交渉という団交における態度は、本件協定における組合の損害が軽微なものであったことを物語っている。さらに、原告は本件協定解約後も組合と団交を重ねてきたことからも、本件解約は、組合弱体化の目的等のためではなかった。

本件で、組合がどのような利益を有し、どのような不利益を受けるかについて検討すれば、組合の利益は単に恩恵的な利益にすぎず、組合には救済するべき利益がないことは明らかである。

(三) 井手窪委員長の会社立入り拒否についても、原告は就業時間外の会社施設内における組合活動を恩恵的に認めたものであり、本件協定の解約により、原告は施設管理権に基づき、同人の立入り拒否をなすことができる。

5 団交の拒否について

原告には、組合が自己の要求のみを主張し、団交による合意が成立する可能性がない場合にまで、すべての事項について団交に応じなければならない理由はなく、本件命令が、組合の団交における態度には不問で、結果的に団交がされなかったことを原告が拒否したことと(ママ)捉らえて不当労働行為であるとした判断は、適正な労使関係の形成という観点から逸脱している。

6 被告補助参加人の被救済利益の不存在

原告は、本件命令を尊重して、命令主文第一項について、井手窪委員長を平成六年八月二五日に復帰させ履行済みであり、同命令主文第四項について、東條青年部長を班長に復帰させ履行済みである。したがって、被告補助参加人には被救済利益は存在しない。

以上のとおりであるから、本件命令は、裁量権を逸脱した違法なものであるから取り消されるべきである。

(被告)

1 被告の認定事実及び判断は、別紙二(略)の本件命令書記載のとおりであり、本件命令に誤りはない。

2 労働委員会の救済命令は、不当労働行為として申し立てられた行為やそれに関連する行為を、もっぱら、労働組合法七条各号所定の行為類型に該当するか、ないしは救済の必要があるかという見地のみから評価して、その法的効力のいかんにかかわらず、使用者に対して正常な労使関係の迅速な回復・維持を図る事実上の是正措置を命ずる行政処分である。本件では、組合掲示板を貸与し、所定労働時間外の会社構内での組合活動を容認する平成二年六月七日の本件協定及びプレハブの建物の貸与を規定する同月一三日の本件協定について、被告は、原告の行った右両協定の解約が有効であるか無効であるかという判断は一切せずに、不当労働行為後におけるこれに関連する行為として、もっぱら救済の必要性があるかどうかという見地から評価しているものである。したがって、本件協定の解約の法的効力について、被告は判断する必要もなければその権限もない。

(被告補助参加人)

1 井手窪委員長の解雇について、広沢社長は、解散の提案など同人の意向に応じようとしない組合及び組合の責任者である井手窪委員長を嫌悪し、同委員長を会社から排除し組合に打撃を与えようとして、同委員長を即時解雇したものである。組合脱退署名の提出及び組合費等の返還請求及び組合ビラの配付の問題については、いずれも原告会社の組織的な不当労働行為である。東條青年部長に対する班長職外しについても、同人の降格の経過からしても原告会社による不当労働行為である。

2 本件協定の解約予告は、原告が、右協定に基づいて設置された組合事務所を破壊し、組合掲示板もすべて撤去するという行為をしたうえで、解約の必要性について全く何の説明もしないで行ったものであり、被告補助参加人の正当な労働組合活動の根拠を奪おうとするものであって、明らかな不当労働行為である。また、本件協定は期間の定めのないものであることは明らかであり、三年の期間の経過にかかわらず有効に存続している。労働組合法一五条一項及び二項は、期間の定めのある労働協約に関する規定であり、期間の定めのない労働協約に適用される規定ではない。

3 団交の拒否については、原告側の最終的な態度は、平成四年一〇月一六日、同年一二月六日の折衝で明らかにされているところであり、団交に応じたとは到底評価され得ない。また、原告が主張する被救済利益に関しては、井手窪委員長の復帰は、本件命令後の事実を主張するものであり、東條青年部長についても同じことがいえるうえ、現在班長職に復帰していない。

第三争点に対する判断

一  井手窪委員長の解雇について

1  井手窪委員長は、前記「前提となる事実」4(一)のとおり、平成二年一〇月一三日、第一機械掲示板の撤去を求めた広沢社長に対し、掲示板の撤去について団交で話し合って欲しい旨述べて右掲示板の撤去を拒んだところ、広沢社長から、いきなりその場で解雇を申し渡されたものである。前記「前提となる事実」2(一)(三)、4(一)の各事実によれば、第一機械掲示板は、岩井社長が同年六月の団交でその利用を承認し、その後約四か月間原告から異議を述べられることなく組合掲示板として利用され、原告から撤去を求められた同年一〇月一一日以降、組合が団交を申し入れていたものである。

2  右のような従前の経緯に照らすと、原告会社が組合に対し右掲示板の使用を許諾し、組合が実際にこれを使用して組合活動の手段としている以上、原告会社は合理的な理由もなくその撤去を求めることは許されないものというべきであるから、井手窪委員長が右のように述べてその場で撤去に応じなかったことは、組合役員としてむりもない対応というべきであって、そのことを同人に対する解雇の理由とすることはできないことは明らかである。広沢社長は、原告の社長就任の当日から、井手窪委員長に対して組合の解散を要求し、その九日後に井手窪委員長の右解雇に及び、そのほかにも井手窪委員長の解雇の前後にわたって、組合を敵視しその活動を牽制する言動を行っていることに照らすと、井手窪委員長に対する右解雇は、同人を原告会社から排除し、組合に打撃を与えようとしてなされたものであることは明らかであって、労働組合法七条一号及び同三号に該当する不当労働行為であるというべきである。

二  組合脱退署名の提出、組合費等の返還請求、ビラ配付について

1  組合脱退署名の提出の経過は、前記「前提となる事実」4(一)、5のとおり、平成二年一〇月一三日、夕礼の席上、広沢社長が「組織をとるのか、私をとるのかはっきりさせてくれ」などと挨拶したことを受けて、その直後の同月一五日、田中本部長が、沢井部長及び係長らを集め、従業員に確認するよう指示し、これを受けて係長らが同日中に就業時間の内外で約八〇名の組合脱退署名を集めたというものである。

右の事実経過によれば、組合脱退署名の提出は、係長がたまたま個人的に実行したものではなく、同月一三日の夕礼における広沢社長の発言の意を体した田中本部長の指示により、系統的になされたものであることは明らかであって、会社の組織的な行為であり、しかも、これが組合脱退勧奨の目的でされたものと認められるから、労働組合法七条三号に該当する不当労働行為である。

2  組合費等の返還請求の経過は、前記「前提となる事実」6のとおり、平成二年一〇月二二日ころ、安藤係長が沢井部長の同意を得た後、同係長らが相談のうえ組合費等の返還署名を集め、同月三一日及び同年一一月二日にその返還請求書をまとめて組合に提出したというものである。組合費等の返還請求は、その時期が前記1の組合脱退署名の提出後、間もなく行われており、沢井部長及び安藤係長自身が前記組合脱退署名の提出にも関与していたことに照らすと、前記組合脱退署名の提出と同様の考慮の下に行われたものであり、沢井部長の同意を得た安藤係長らが、組合を嫌悪する広沢社長の意を体して行ったものと認められる。したがって、これらの行為も、会社の行為というべきであって、労働組合法七条三号に該当する不当労働行為であるということができる。

3  組合ビラ配付の問題は、前記「前提となる事実」7のとおり、平成二年一〇月一八日以降、組合のビラ配布(ママ)が始まる午前七時四〇分ころから、原告の役員、部課長、係長らが多数玄関前に参集するようになり、部課長、係長らがゴミ箱を用意し、ビラを受け取った従業員に対し、「ゴミは、ここに捨てて下さい」と述べ、同月二七日には、勝浦係長がビラを受け取った者の名前を書く振りをし、また、牧浦係長が部下にビラを絶対受け取らないよう指示した結果、同日以降ビラを受け取る者がいなくなったというものである。

右の原告会社職制の行為は、前記一の井手窪委員長の解雇及び前記二1の組合脱退署名の提出の直後に行われ、前記組合費等の返還請求とほぼ同じ時期であったこと及び早朝に突然職制が参集するについて個人的な動機が見当たらないことを考慮すると、原告会社の役員、部課長らが、組合を嫌悪する広沢社長の意を体して、組合のビラ配布活動を妨害・牽制する目的で組合活動に介入したものであることは明らかであり、会社の行為というべきであって、労働組合法七条三号に該当する不当労働行為である。

三  東條青年部長に対する班長職外しについて

1  東條青年部長は、前記「前提となる事実」8のとおり、平成二年一〇月二七日、勝浦係長から班長としての職務の一つである日報を作成する作業を止められ、同月二九日には、沢井部長から、考え方を変えないのなら班長としての指示はできないとして、班長としての仕事を止められたものであり、班長職を降格したものということができる。

原告は、右降格が会社の人事上の問題であると主張するが、このような人事措置を行う合理的な理由は証拠上明らかとならず、班長職は、班長手当が支給され、事実上他の一般の現場従業員に対して仕事を指揮・指導する立場であったと認められるから、右の経緯で東條青年部長から(ママ)班長から降格させたことは、班長手当が従前どおり支給されたとしても、同人に対して仕事上の差別扱いをしたものであって、しかも、組合活動を萎縮させる原因となりうることは明らかである。したがって、東條青年部長を班長から降格させたことは、労働組合法七条一号及び同三号に該当する不当労働行為というべきである。

2  また、原告は、同人を解雇したことにより右降職(ママ)処分を救済する必要性がないとも主張するが、本件命令当時、前記「前提となる事実」8のとおり、原告は、東條青年部長が原告会社を被告として雇用関係の存在の確認等を請求した訴訟において、同人の解雇が無効であると判示した第一審判決を受けたことによって、同人を原職場である第一機械部門において就労させるに至ったこと、東條青年部長の解雇の問題は、本件とは別に大阪府地方労働委員会に救済申立てが行われ、同事件は本件再審査審問終結時において同委員会に係属中であったこと等の事情に鑑みると、原告がその後同人を解雇したからといって、その解雇が有効なものであることの主張立証がなされない以上(本件においてその主張立証はない。)、同人の班長職からの降格処分について救済の必要性がなくなったということもできない。

四  本件プレハブ建物の破壊、組合掲示板の撤去について

1  本件協定の締結並びに組合が本件プレハブ建物及び組合掲示板を利用するに至った経緯についてみると、前記「前提となる事実」2のとおり、原告と組合との間では、平成二年六月七日及び一三日に開催された団交において、組合掲示板を各工場に設置すること、就業時間外の原告会社施設内での組合活動を保障すること、組合に備品の置場を提供すること等を定めた本件協定が締結され、これを受けて、組合は、本件プレハブ建物に備品を搬入し、書類の作成、打合せ等に使用しており、同年九月初旬には、原告が組合に対し、六枚の掲示板を貸与し、組合はそのうち三枚を三か所に設置して使用し、また、右六月七日の団交の席上では、岩井社長が従業員間で従来利用されていた第一機械掲示板を組合掲示板として利用することを認め、その翌日から組合は右掲示板を使用していたものであるということができる。

2  労働組合による企業施設の利用は、使用者と団交等による合意に基づいて行われるべきものであるところ、本件においては、右1の経過に鑑みると、第一機械掲示板は本件協定の対象物そのものではないが、従前から従業員用に提供されていたものであったことから引き続き組合掲示板として利用することを原告会社において許諾したものであり、また、本件プレハブ建物については、本件協定上は備品置場として提供するものとされているが、特に前記「前提となる事実」2(二)の原告会社と組合とのやり取りに注目すれば、それは原告会社が厚生会館を組合事務所として提供できるまで暫定的に本件プレハブ建物を組合事務所として利用することを許諾する措置であったものということができる。そうすると、第一機械掲示板については原告会社の同意に基づき、その余の現に組合が利用していた掲示板三枚及び本件プレハブ建物については本件協定に基づき、それぞれ組合掲示板、組合事務所として使用することを内容とする期間の定めのない無償の使用貸借関係が設定されたものというべきである。そして、右の使用貸借関係の設定は、労働組合法二条二号、七条三号の規定によって許容される便宜供与の性質を有するにすぎないから、原告会社は、当該便宜供与を任意に打ち切ることができ、また、労働組合法一五条三項の規定に基づいて本件協定を無制限に解約予告をすることができるものと解され、そのことが直ちに不当労働行為となるものではない。しかしながら、会社が便宜供与を与えたことによって、右各掲示板及び本件プレハブ建物が組合の維持・運営ひいては団結権の確保のための手段となる機能を果たしているものであるから、会社は合理的な理由がないにもかかわらずこれらの返還請求ないし撤去をすること、あるいは、これらの便宜供与の根拠となる本件協定の解約予告をすることは、権利の濫用として許されないというべきである。

3  右の観点に立って、便宜供与の打切りないし本件協定の解約に至った経緯についてみると、前記「前提となる事実」9のとおり、本件プレハブ建物の破壊行為、組合が平成二年九月五日に設置した三か所の掲示板の撤去については、具体的な行為者は明らかとならないものの、会社施設が破壊・撤去されたにもかかわらず、原告会社においてその原因について調査・究明がされていないうえ、右建物は、勝浦係長の指示に基づきその部下がフォークリフトをこれに突っ込ませたため使用することができなくなり、右建物が完全に破壊された後、沢井部長の指示により香西課長及び勝浦係長らが組合に無断でその備品とともに撤去したものであり、右各掲示板がいずれも会社構内に設置されていて、第一組立掲示板の最初の撤去は原告によるものであって、広沢社長が就任後約二か月の間に、前記の組合への不当労働行為と相前後して行われたものであったことを考慮すると、かかる一連の破壊・撤去行為は、組合を嫌悪する広沢社長の意を体して、原告会社職制ないしその指示を受けた部下によって、組合の弱体化を意図して行われたものと推認することができ、この推認が不合理であるとする事情は認められない。

ところで、原告は、本件プレハブ建物及び組合掲示板について、その後何らの復元も行わないまま、本件の初審審問終結直前の平成四年六月九日に至って、組合に対する事前の事情説明を行うことなく本件協定の解約予告を行ったものであるが(前記「前提となる事実」11)、原告が右解約予告をした理由については、営業部長兼取締役岩井勝は、本件再審査の審問において、就業規則の中において既に定められている事項があるから、それをだぶって協定中に定める必要はなく、右の事項に含まれない組合掲示板の設置及び備品置場の提供については、不必要と判断したからである旨、そして、右の点についてなぜ不必要と判断したのかという問いに対して、別段その理由はなく、組合員数が従業員の一割にも満たないからである旨を供述するに止まり(<証拠略>)、右供述は、本件協定の解約について、原告の企業運営上の必要性に関わる等の合理的な理由を述べているとは解し得ないし、そのほかに証拠によっても、本件協定の解約の合理性を窺わせるような事情は認めることはできない。

4  以上を総合すると、原告の本件協定の解約予告は、会社側において合理的な理由がなく行われたもので、権利の濫用に当たるというべきであって、さらに、右解約予告に至った経緯に鑑みると、これによって組合活動に支障をもたらし、原告会社の従前行ってきた組合弱体化を完遂させようとする意図の下に行われたものと推認することができるから、不当労働行為に該当し、許されないというべきである。

5  原告は、本件協定が三年間の期間満了によって失効したと主張するが、本件協定に期間の定めがないことは争いがなく、この場合に労働組合法一五条一項所定の三年間の経過によって本件協定が当然に失効すると解すべき根拠はなく、原告の主張は独自の見解に基づくものであって採用することができない。

また、原告は、本件協定が暫定的なもので、その解約を前提として労使交渉等を重ねたことなどから右協定は失効したと主張する点については、前記のとおり、本件プレハブ建物は厚生会館を組合事務所として提供することができるようになるまで暫定的に利用されるものであったということができるが、原告会社は一方的に右建物を破壊し、組合掲示板を撤去するに至ったため、組合が組合掲示板及び本件プレハブ建物を復旧させること等について本件救済命令を求めていること等に鑑みると、本件で、右協定が失効するような事情があるということもできず、原告の主張は採用できない。

五  井手窪委員長の原告会社への立入り拒否について

前記「前提となる事実」4(二)のとおり、原告は、平成二年一〇月一五日以降、井手窪委員長を解雇したことを理由に、同人の会社構内及び本件プレハブ建物への立入りを拒否していたものであるところ、前記一のとおり同人の解雇が不当労働行為に該当するうえ、就業時間外の会社施設内での組合活動を保障する旨の本件協定は、平成四年六月九日に原告が解約するまでは、原告の当時の理解によっても有効に存続していたのであるから、原告が同人の会社への立入りを拒否したことは何ら合理的な理由がないにもかかわらず行われたもので、労働組合法七条三号に該当する不当労働行為というべきである。

また、原告の主張する本件協定の解約は、前記のとおり合理的な理由がなく、もっぱら従前の不当労働行為の効果を維持させる意図のもとになされた不当労働行為であるといわざるをえないから、右の判断を左右するものではない。

六  団交拒否について

1  原告は、前記「前提となる事実」11のとおり、組合の平成二年一〇月二五日付け及び同年一一月二日付けの各団交申入れに対しては、何ら応答することがなく、組合から右両日の団交事項に議題を追加してなされた同月二二日の団交申入れを受け、右申入れの開催予定日であった同月二八日の夕刻になって一旦は団交に応ずる意向を示したが、井手窪委員長を入れて団交はできないとして開催を断わり、翌日の団交開催もできないと回答していたところ、翌二九日、夕刻になって突然組合に対して団交に応ずる意思を表したが、組合の日程調整ができないことから同日団交が開催されず、その後平成四年一〇月一六日に至るまで組合と原告による団交が開催されなかったものである。

右の平成二年一一月二八日に原告が団交開催を拒否したことについて、井手窪委員長は組合委員長の地位にあって、原告がした解雇の効力を争い、当該団交の議題に含まれていたことからすると、原告は、同人が団交に出席することを理由に団交の開催を拒むことは許されなかったというべきである。さらに、翌二九日は、原告が、その日の開催を一旦断っておきながら、当日の夕方になって突然団交に応ずる意思を明らかにするという不誠実な対応をしたため、組合側の出席者の確保ができず、同日団交が開催できなかったのであり、その責めは、もっぱら原告にあったというべきである。

以上によると、原告は、平成二年一〇月二五日及び同年一一月二日に団交を申し入れた議題について、正当な理由がなく団交を拒否したというべきであって、労働組合法七条二号に該当する不当労働行為である。

2  原告は、組合が自己の要求のみを固執し、団交による合意が成立する可能性がなく、結果的に団交がされなかったと主張するが、右団交申入れにおける交渉事項は、井手窪委員長の解雇問題を始めとする原告の数々の不当労働行為を是正を求めるものであり、原告がこれと異なる見解を採っているからといって協議に応じないことが許されるわけではない。また、証拠(<証拠略>)によれば、本件初審審問終結後の平成四年一〇月一六日以降、原告と組合は十数回団交を開催したことが認められるが、右の交渉事項については、同日の団交の冒頭で、原告の考えを一方的に回答したに止まり、その後実質的な交渉が行われた事実は認められないことからすると、当該議題について原告が既に団交に応じたと評価することもできない。したがって、原告の右主張は理由がない。

七  被救済利益の不存在について

原告は、井手窪委員長を平成六年八月二五日に復帰させたこと、東條青年部長を班長に復帰させたことをもって、被告補助参加人には被救済利益は存在しない旨主張する。しかし、原告の主張によっても井手窪委員長の原職復帰は、原告に対する本件命令交付後のことであるとともに、東條青年部長の班長への復帰は、これを認めるに足りる証拠がないばかりか、原告は、本件審理を通じて、一貫して井手窪委員長の解雇及び東條青年部長に対する班長職からの降格が正当であると主張しており、右解雇及び降格処分を撤回したものとは認められないのであるから、被救済利益が失われたと解することはできないのは明らかである。したがって、この点に関する原告の主張は採用することができない。

八  結論

以上のとおり、本件命令の認定及び判断は正当であり、原告主張の違法は認められないから、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判長裁判官 遠藤賢治 裁判官 吉田肇 裁判官 梅本圭一郎)

《別紙一》

主文

一 被申立人は、申立人組合執行委員長井手窪啓一に対する平成二年一〇月一三日付け解雇がなかったものとして取り扱い、同人を原職に復帰させなければならない。

二 被申立人は、申立人組合に対し、申立人と協議のうえ、破壊されたプレハブの建物と同程度のものを組合事務所として従前の場所あるいは会社本社構内のいずれかの場所において提供しなければならない。

三 被申立人は、申立人組合に対し、申立人と協議のうえ、撤去した組合掲示板(従来評議員会が利用していた掲示板を含み、第三物流センターに設置されていた掲示板を除く)を、従前の場所又はこれと同等の場所に設置しなければならない。

四 被申立人は、申立人組合員東條裕彦に対する平成二年一〇月二九日付けの班長からの降格処分がなかったものとして取り扱わなければならない。

五 被申立人は、申立人から申入れのあった平成二年一〇月二五日及び同年一一月二日付け団体交渉申入書についての団体交渉に速やかに応じなければならない。

六 被申立人は、一メートル×二メートル大の白色板に下記のとおり明瞭に墨書して、被申立人会社の本社玄関附近の従業員の見やすい場所に一〇日間掲示しなければならない。

平成 年 月 日

岩井金属労働組合

執行委員長 井手窪啓一殿

岩井金属工業株式会社

代表取締役 広沢清

当社が行った下記の行為は、大阪地方労働委員会において、労働組合法第七条第一項(ママ)第一号、第二号及び第三号に該当する不当労働行為であると認定されましたので、今後このような行為を繰り返さないようにいたします。

一 平成二年一〇月一三日、貴組合執行委員長井手窪啓一氏を解雇したこと。

二 貴組合組合員に対し貴組合からの脱退署名を集めたこと並びに組合費及び闘争積立金の返還を請求させたこと。

三 貴組合が組合事務所として使用していたプレハブの建物を破壊したこと。

四 貴組合掲示板(従来評議員会が利用していた掲示板を含む)を全て撤去したこと。

五 従業員が貴組合のビラを受け取ることを妨げたこと。

六 貴組合執行委員長井手窪啓一氏の組合事務所への立入りを阻止したこと。

七 貴組合組合員東條裕彦氏を班長から降格させたこと。

八 貴組合から平成二年一〇月二五日及び同年一一月二日付けで申入れのあった団体交渉に応じなかったこと。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例